新型コロナウイルス変異株に国名使用せず、ギリシャ文字に
WHO(世界保健機関)は、2021年5月31日、新型コロナウイルス変異株の名称について、最初に確認された国名ではなく、ギリシャ文字のアルファベットを使用すると発表した。
新名称は「懸念される変異株(VOC)」(現在流行している中で最も問題のある四つの変異株)と、その次に警戒される「注目すべき変異株(VOI)」に適用される。
二つの科学的名称(呼称と系統名)は継続
新型ウイルス変異株に関しては、それぞれの変異に対して二つの科学的名称(呼称と系統名)が使用されており、突然変異に関する情報を伝える「B.1.1.7 」「B.1.351」「P.1」「B.1.617」といった系統名は、科学界では今後も使用される。
WHOは声明で、「こうした科学的名称には利点がある一方で、言いづらく、覚えにくく、誤報につながりやすい」とし、「そのため、変異株は最初に確認された場所の名前で呼ばれがちだが、こうした呼称は蔑称や差別に当たる」と指摘。「このような事態を避けつつ広報活動を簡素化するため、WHOは各国当局や報道機関などにこれらの新呼称を採用するよう求める」と述べた。
新変異株はオミクロン株、ニューとクサイが飛ばされた理由は?
WHOによると、オミクロン株は11月24日、南アフリカで初めて確認された。専門的な命名法(PANGO系統)では「B.1.1.529」とされ、いくつかの変異があり、ほかの変異株と比べても再感染のリスクが高まっているとしている。
変異株は当初、最初に見つかった国や地域の名前で呼ばれていたが、偏見や差別が生まれる懸念があることから、WHOは2021年5月末からギリシャ文字を使うようになっている。
変異株を警戒レベルの度合いによって、感染力が強まったり、ワクチンの効果を弱めたりするものを「懸念される変異株(VOC=Variants of Concern)」、複数の国や地域でクラスターが発生するなど拡大しているものを「注目すべき変異株(VOI=Variants of Interest)とそれぞれ分類している。VOCの方がより警戒度合いが高い。
また、VOIから一段、警戒レベルが格下げになったものは「監視中の変異株(VUM=Variants Under Monitoring)」と呼んでいる。
ただ、オミクロンという名前をめぐってはソーシャルメディアなどで疑問の声が上がっている。というのも、WHOの分類によると、これまでの最新の変異株はミュー(μ)株であり、ギリシャ文字のアルファベット順では、次はニューとクサイが使われるはずだったからだ。
これについて、イギリスのメディア「テレグラフ」のシニア編集委員はTwitterで以下のように発言した。
「WHO関係者によると、ギリシャ文字のニューとクサイは意図的に避けられた。ニューは「new」という言葉と混同するため、クサイは「ある地域に汚名を着せないようにする」ためにそれぞれスキップされた」
A WHO source confirmed the letters Nu and Xi of the Greek alphabet had been deliberately avoided. Nu had been skipped to avoid confusion with the word “new” and Xi had been skipped to “avoid stigmatising a region”, they said.
All pandemics inherently political!
— Paul Nuki (@PaulNuki) November 26, 2021
一方、クサイについては、英語ではxiと書き、中国の習近平(シーチンピン)国家主席の「習」の字も英語では「Xi」と表記することから、ソーシャルメディアではWHOが中国に気を遣って使用しなかったとの臆測が広がっている。
新型コロナウイルスは2019年12月、中国・武漢で初めて確認されたとされ、それ以降、世界的な大流行が起きている。
新型コロナウイルスの起源をめぐっては、トランプ氏が大統領だった2020年、武漢の研究所から流出したとする説について「(証拠を)見た」と主張。中国側は反発していた。
次のバイデン政権は改めて調査をして結果を公表、それによると武漢ウイルス研究所から流出した説と、動物を介して人に感染した説のどちらかは結論が出ないとした。(GLOBE+ 20211127)
変異株のギリシャ文字呼称
オミクロン株
WHOは11月26日、独立専門家会合を開き、南アフリカで検出された新型コロナウイルスの新たな変異株「B.1.1.529」を「懸念される変異ウイルス(VOC)」に指定した。「疫学上有害な変化」が認められたとし、他の変異株よりも感染が急速に拡大する恐れがあるとしている。
VOC指定は5番目。ギリシャ文字の「ο(オミクロン)」を割り当てた。
WHOは会合後に発表した声明で、南アフリカではオミクロン株の検出と時期を同じくして、ここ数週間、感染が急速に拡大していたと指摘。「この変異株には数多くの変異があり、このうちいくつかは懸念される」とし、予備段階の検証で、他のVOCと比べオミクロン株の感染リスクが高い可能性があることが示唆されているとした。
その上で「この変異株はこれまでの感染急増よりも速いペースで検出されている。このことから、増殖に有利な特性を備えている可能性があることが示唆される」とした。
WHOは現在使われているPCR検査でオミクロン株も検出できるとしている。
WHOのリンドマイヤー報道官はジュネーブで行なった記者会見で、オミクロン株の感染力やワクチンの有効性などに関する情報が得られるまで数週間かかると指摘。現時点での渡航制限の導入には慎重に対応してほしいとし、「渡航に関する措置を導入する際は、リスクに基づいた科学的なアプローチを取るよう呼び掛ける」とした。
アルファ株
イギリスで見つかった変異ウイルスの「アルファ株」は2020年12月上旬に初めて報告
「スパイクたんぱく質」に「N501Y」と呼ばれる変異があり、「スパイクたんぱく質」の501番目のアミノ酸がアスパラギン(略号N)からチロシン(略号Y)に置き換わっている
ベータ株
南アフリカで最初に見つかり、2020年5月には発生していたとされる。同年11月中旬に南アフリカで行われた解析ではほとんどがこの変異ウイルスだったとみられている
「N501Y」の変異に加えて抗体の攻撃から逃れる「E484K」という変異もあることから、ワクチンの効果への影響が懸念
ガンマ株
ブラジルで2020年11月のサンプルで確認され、WHOは、2021年3月・4月の時点ではブラジルで遺伝子を詳しく調べた検体のうち83%に上ったとしている
南アフリカで確認された「ベータ株」と同様に「N501Y」に加えて抗体の攻撃から逃れる「E484K」の変異もあることが分かっている
デルタ株
デルタ株
インドで最初に確認された変異株は亜系統に分かれ、そのうちVOCに相当する「B.1.617.2」系統が「デルタ株」、VOIに相当する「B.1.617.1」系統が「カッパ株」
※インドで確認されたもののうち、最も拡大しているものが「デルタ株」で、VOC指定
VOC:懸念される変異株 現在流行している中で最も問題のある四つの変異株
VOI:注目すべき変異株 VOCのの次に警戒される変異株
イータ株
2020年12月にイギリスで最初に確認された変異ウイルス
VOI指定
日本では、厚生労働省が、2020年12月から9月3日までに国内に到着した人のうち、検疫の検査で陽性となった人の検体を国立感染症研究所で遺伝子解析した結果、合わせて18人がイータ株に感染していたと公表した(2021年9月9日)
イオタ株
米NYで発見された
VOI指定
カッパ株
デルタ株のうち、「B.1.617.1」系統
VOI指定
2020年10月、インドで最初に確認された
日本では、2021年9月3までの検疫検査で19人の感染が確認されたことを厚生労働省が公表した。検疫以外の事例では、2021年6月、三重県で確認されたとの報告例がある(新型コロナ 県内初「デルタ」、カッパ株と判明 新たに13人感染 /三重 2021年6月24日毎日新聞報道)
ラムダ株
WHOによると、ラムダ株は去年8月に南米のペルーで初めて報告され、ペルーやチリ、エクアドルなど南米を中心に広がっている
WHOは、注目すべき変異株に指定
現在のところ「デルタ株」や「アルファ株」など「懸念される変異株」に位置づけられている変異ウイルスほどの広がりは見られていない
国立感染症研究所は「感染力やワクチンへの抵抗力が従来のウイルスより強い可能性はあるものの、データが限られている」として、現時点では「注目すべき変異株」に位置づけていない
ミュー株
コロンビアで最初に確認された
WHOは、2021年8月31日、1月にコロンビアで最初に確認された新型コロナウイルス変異株「B.1.621」系統の「ミュー株」を「注目すべき変異株(VOI)」に分類したと明らかにした。指定は8月30日付
2021年1月に南米のコロンビアで初めて確認されて以降、南米やヨーロッパで感染が確認されていて、特にコロンビアとエクアドルで増加傾向にある
ミュー株は、新型コロナウイルスの遺伝子配列を登録するウェブサイト「GISAID」で、9月2日の時点で42の国や地域で報告されいる
ミュー株は、ウイルスの「スパイクたんぱく質」の遺伝子に「N501Y」という変異や抗体の攻撃から逃れる「E484K」という変異などが含まれていて、この2つの変異は南アフリカで確認され、WHOが「VOC=懸念される変異株」に位置づけている「ベータ株」にもみられるという
ギリシャ文字のアルファベット24文字以降
24文字あるギリシャ文字のアルファベットを使い果たした後の名称をどうするかは未定
エプシロン(日本ではイプシロンと呼称されることが多く見受けられる)、ゼータ、エータ、シータ、イオタは既にVOIに割り当てられている
N501Y
ウイルスのタンパク質の501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変わり、スパイクタンパク質が人の細胞と結合しやすくなったとされる
南アフリカ株とブラジル株は、484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リシン)に変化したE484K変異を併せ持つ。
L452R
L452R変異は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質にみられる変異で、同変異を持つ変異株として、インド株B.1.617、カリフォルニア株B.1.427、B.1.429などが知られている
E484K
「E484K」は、イギリスや南アフリカなどで広がったものとは異なるタイプの変異した新型コロナウイルスのひとつで、「スパイクたんぱく質」のアミノ酸のうち、484番目のアミノ酸が変化している
cf:新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の484番目のアミノ酸が、野生型ではグルタミン酸(E)であるところ、リジン(K)に変異したもの(E484K変異)およびグルタミン(Q)に変異したもの(E484Q変異)が報告されている
慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センターは、2021年3月4日付で、日本に特有の株であるB.1.1.214に属する株の中でE484Kが2020年8月と2020年12月に発生していたことを報告
「AY.4.2」デルタ株関連
「AY.4.2」デルタ株関連
香港で新型コロナ「デルタプラス」変異ウイルス初確認…英国から到着した男性が感染
■変異株に新たな分類、要監視の「VUM」 デルタプラスなど指定
国立感染症研究所は、新型コロナウイルスの変異株について新たな分類を導入した。これまでの「懸念される変異株」(VOC)と「注目すべき変異株」(VOI)の下に、「監視下の変異株」(VUM)を新設。デルタ株から派生した「デルタプラス」とも呼ばれる「AY・4・2」などを指定した。
変異株の分類は、世界保健機関(WHO)の定義を準用する形で運用してきた。VUMはWHOが9月に新設し、各国にさらなる監視や研究の強化を求めたため、感染研は10月28日から導入した。発生状況や基本的な性質、特徴の情報を収集する対象にする。監視から早期対応につなげることが目的だ。
VUMの対象は、ウイルスの感染力などへの影響が疑われる遺伝子の変異があるが、疫学的な影響が不明で監視強化が必要なもの。一時はVOCやVOIに指定されたが、感染例が激減したものなども含まれる。
感染研は国内の流行状況を加味して、WHOから独立して変異株を指定している。10月28日時点で、VOCは南アフリカ由来のベータ株、ブラジル由来のガンマ株、第5波で流行の中心となったインド由来のデルタ株の3種類。VOIはない。VUMは、第4波の中心だったアルファ株のほか、南米で広がったラムダ株やミュー株など5種類を指定した。
「AY・4・2」はデルタ株にさらに変異が加わったもので、ワクチンが効きにくくなる可能性は低いとみられるが、感染力の変化などは十分わかっていない。国内でも8月28日に英国滞在歴のある人から検疫で見つかった。
【国内での変異株の分類】10月28日時点
懸念される変異株(VOC)
ベータ株、ガンマ株、デルタ株
注目すべき変異株(VOI)
該当なし
監視下の変異株(VUM)
アルファ株、カッパ株、ラムダ株、ミュー株、AY・4・2(デルタプラス)(朝日20211105)
■英国内で新型コロナウイルスのデルタ変異株のうち「AY.4.2」と呼ばれる亜系統が最近確認され、感染事例が増加基調にあることから今後の動向を注視していることが21日までにわかった
英国保健安全保障庁によると、この亜系統は今年9月27日の週の国内の感染件数のうち推定で6%を占め、感染拡大の要素となる傾向もうかがえるとした
英国では懸念を抱かせる変異株としてはまだ指定されていない。英国以外での発生はまれで、少数の感染事例がデンマークと米国で判明した
デルタ変異株の亜系統を確認、感染増加 英国
■イギリスに新たな変異株「デルタプラス」出現 従来型より感染力が強い可能性
■ロシア政府当局の上級研究員カミル・カフィゾフ氏は21日、デルタ株よりも感染力が強いとみられる新型コロナウイルス変異株「AY.4.2」の感染がロシアで複数確認されたと発表した
ロシアで新たなコロナ変異株、デルタより感染力強い可能性(REUTERS)